坂道では自転車を降りて

「あんなの、椎名にバレたらあんたと修羅場になりますよ。そうなったら多分、あいつも辞めてましたよ。」
「。。。。。」
「だいたい、あんた、自分が書いた脚本なんだから、書き直せば良いでしょう?役者ひとりくらい減らせなかったんですか?」
「。。。。それは、、その時は気付かなかったんだ。ごめん。」

 本当のことを言えば俺は気付いていた。主演の変更に伴って本は大幅に書き直したのだから、ついでに書き直すのは大した手間では無かった。だが、誰も言い出さないのを良い事にそのままにした。彼女と一緒に稽古がしたかったし、川村とも引き離したかったから。彼女だって楽しそうだった。

「まあ、俺達も最初は別に反対しなかったけど。川村先輩があんな事になるなんて思ってなかったから。それに、神井先輩、川村先輩のことがあってから、大野先輩になんか言ったでしょ?男と2人になるなとかなんとか。作業押してて、そんなこと気にしてる場合じゃないのに。作業場むちゃくちゃ寒ぃのに、ドア開けろとか、言ったでしょ?」
「。。。言った。」
「大野先輩、板挟みになって、ごめんねって言いながら、一時期、ドア開けてましたよ。でも俺達、無視して閉めちゃいましたけど。そんなこと気にされたら余計ぎくしゃくするじゃあないですか。ちったあ、信用しろっての。ドアなんか開いてたって、自分で閉めりゃいいんだから、襲いたかったら、いつだって襲えますよ。」

「とかやってる間に、今度は別れたとか言うでしょ。俺達振り回すのもいいかげんにしてくれって思いましたよ。大野先輩は健気というよりは馬鹿みたいに、川村先輩まで失って、あんたに尽くしてるのに、あんた別れるとか、本当は好きだとか、優柔不断な事言ってて、くだらねぇ。
 あんな騒動がなかったら、椎名だって大野先輩のこと、あこがれてはいたけど、最初から諦めてた筈だったのに。あいつ冬休み中ずっと悶々としてたんじゃねーの。なのに新学期開けたら、先輩達すっげー仲良くなってて、俺達の前でイチャイチャするし。あれじゃあ、椎名じゃなくてもキレますよ。
 ようするに、もう、2学期からこっち、ずーっとぎくしゃくしっ放しで、いっぱいいっぱいだったんですよ。先輩も俺達も。」
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