坂道では自転車を降りて
「椎名だって、頭では分かってるんですよ。大野先輩が急に女っぽく、可愛くなったのは神井先輩と付き合い始めたからで、自分じゃ手も足も出ないってことくらい。だから、憂さ晴らしに神井先輩の悪口言ったりして、からかうんです。でもそれも、先輩達がヤツの前で、これみよがしにイチャイチャするからでしょう。あんなの、誰も見たくないですよ。」
「これみよがしってなんだよ。そんなこといつした。」
思わず熱くなって反論したが、確かにイチャイチャしてないとは言えないかもしれない。どう考えても浅はかだった。

「。。。。。」
織田は冷めた目で俺を見下ろしている。
「。。。。。わかった。それも気をつけるよ。本当に、ごめん。多恵にも謝らないと。」
「言い過ぎました。すみません。」
「いや、いい。お前の言う通りだと思う。」
 役者連中に、からかわれるから隠したいと思っていた俺が、彼女が裏方でやりにくくなることに無頓着だったのは、配慮が欠けているとしか言いようがない。

「。。。。。なんで神井先輩なんですかね。。」
こいつからみても、俺じゃ役者が不足しているように見えるのか。だろうなぁ。。
「俺も心底そう思う。なんで俺なんだろう。でも、言い訳する訳じゃないけど、俺から告白ったんじゃないんだよ。」
「えっ。そうなんですか?」

「川村から横取りするとか、そんなつもりもなくて。今だって、もし多恵がそう言ったら、川村なら仕方ないと思ってる。椎名には絶対譲らないけどな。」
「嘘ばっかり。そんなにメロメロなのに譲れるわけないでしょ。川村先輩は可哀想だけど自業自得ですよ。他にも彼女っぽい子が山ほどいたし、大野先輩は真面目だから手が出なかっただけでしょう。でなきゃ、断られるのが怖くて告白れなかったか。それともとっくの昔に告白ったけど、気付いてもらえなかったとか。どっちにしても川村先輩には無理だったと思いますよ。」
こいつ手厳しいな。
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