坂道では自転車を降りて
「そんな風に言わないでやってくれよ。今までずっと彼女を守ってたのもあいつだし、今、一番辛いのも多分あいつだ。お前らだって見てただろ?」
織田は遠くを見ながら、しばらく黙っていた。
「大野先輩が神井先輩に告白したんですか?」
「それも微妙に違う。どっちからってわけじゃなくて、、、でも、川村が。俺に彼女と話せって言ってくれたんだ。彼女にも俺から逃げるなって。あいつがいなかったら、多分、すれ違ったまま終わってたと思う。」
「はぁ??川村先輩、何やってんですか?」
「優しいんだよ、あいつは。多恵を本気で好きだったんだ。」
「知ってますよ。だからって、そこまでしなくても。」
「あいつが辞めたのは俺のせいだ。だから、この通り、俺が頭下げるから、川村の代わりに多恵を守ってくれ。頼む。俺に出来る事なら何でもするから。」
俺は座ったまま、できるだけ丁寧に織田に頭を下げた。後輩に頭を下げるのは、ちょっと気が引けたけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
「。。。。やりますよ。もちろん。でも、神井先輩の為じゃないです。自分らの為です。だから、頭下げないでください。
それと、先輩が倒れた事は俺しか知りません。口止めされました。だから、神井先輩も知らないことにしといて下さい。先輩は自己管理が不十分で恥ずかしいとか、あんたに見捨てられたくないとか思ってるみたいですけど、俺は椎名が暴走しないか心配です。俺ですら、あんたのとこに怒鳴り込みたくなりましたから。だから、絶対に誰にも言わないで下さい。裏は俺がなんとかします。」
「すまない。頼む。」
俺はもう一度、頭を下げた。織田はどうしようもないといった顔で俺を見下ろした。
「大野先輩は真面目で頑張り屋なのは良いんですけど、なんか配慮が足りないというか、周りが見えてないと言うか。自覚がゼロなんですよね。俺達が心配してるとか、多分、考えてみた事もないんじゃないかな。」
俺達は2人、視線を合わせないまま、深いため息をついた。