坂道では自転車を降りて
思っていた以上に、俺は彼女に無理をさせていたらしい。もう触りたいとかそういうのは後回しにしないとだめだ。織田の話を聞いて、いいかげん目が覚めた。あいつらの不満は、ほとんどが俺に対するものだ。彼女への姿勢、部への姿勢、その両方を試されている。彼女の事だけじゃない、裏と役者が、1年と2年が、分裂しかかってる。演劇部の危機だ。
俺は、演劇部と最後の舞台に集中することにした。脚本と演出はそれなりに上手く走っていたが、裏方の一年とも密に連絡を取り、手があいた役者には裏を手伝わせた。独りで抱え込んでしまう彼女に負荷がかかっていないか気を配り、織田にも確認する。そして、彼女とは活動以外で顔を合わせる機会を作った。図書室だ。
次回公演の脚本のテーマが重たそうなので、原と俺の間では、舞台が暗くならないような演出や脚本のパターンの開発を念頭に置いた。コメディの要素を多く盛り込み、一年からも意見を出させ、できるだけ採用する。裏方組の発案で、棚の落ちる本棚を導入することにした。
椎名はしばらく俺から逃げ回っていたが、とりあえずは、大人しくしているらしい。彼女と一年生との間に、その後何かあったか、彼女からは聞いていないが、活動にも徐々に戻って来ている様子だった。新しい装置を一から作るには、やはり彼女が必要だったらしい。あとは織田や椎名達を信じるしかない。