坂道では自転車を降りて

 山田と原部長とそれに中田先輩か。大野先輩と神井先輩のことを噂している。俺達からすれば、神井先輩のほうが大野先輩を振り回しているようにしか見えないのだが、彼等にはそう見えるのか。彼等はその大野先輩が倉庫にいると気付いていないらしい。

「それはもう、勘弁してやってくれ。神井もあれで恋愛に関しては全然ダメなんだ。相手が悪いよ。」
悪いと言われた大野先輩は、不安そうな顔で椎名の方をみた。椎名はムッとした顔で黙って聞き耳を立てている。

「やっぱり大野先輩が振り回してるんですか?」
「大野さんってそういうタイプだったの?」
「悪いってそういう意味じゃないよ。でもまあ、振り回されまくってるのは事実だな。初心者の神井には難易度が高いんだそうだ。」
「まぁ、確かにちょっと変わってるよな。」
「彼女、一見すごく真面目で晩生に見えるだろ?でもさ、天然なのか、それとも分かってやってるのか、もうすごいぜ。何人泣かされたか。お前、会った事あったっけ?鈴木先輩、今3年の。」
「すごく格好良い先輩ですよね。舞台監督だった。」

 俺も何度か会った事がある。外見も中身も、男の俺でも惚れそうなくらいカッコいい。なのに気さくな先輩だ。大野先輩と川村先輩を妹と弟みたいに可愛がっていた。俺達にも弟分みたいに接してくれる。
「スポーツ万能だし、優しいし、イケメンだし、いくらでも相手はいたと思うんだけど。鈴木先輩も彼女にメロメロでさ。毎日、多恵、多恵って。さんざん振り回されて。いや、自発的に振り回されてたんだけどさ。でも結局、引退の時に告白ってフラれたらしい。それをまた清水先輩に皆の前でばらされて、悲惨だったぜ。俺だったら立ち直れないね。」
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