坂道では自転車を降りて
 水の流れる音がする。俺は学校の流しの前に立って、大野多恵の腕についた血を洗っていた。

「くすぐったい。」
彼女は笑って、頬を俺の背中に乗せた。
「こっちも洗うぞ。」
「うん。」

指先にこびりついたティッシュはなかなか落ちない。彼女は俺の背中に身を預けてクスクスと笑う。
「やん♡。くすぐったいってば。」
背中に胸の感触が。。俺は真っ赤になりながら、指先を洗い続けた。

「ねえ、もういいよ。それよりも、こっち向いて。」
振り返ると、彼女の顔が目の前にあった。近いっ。あまりの近さにクラクラと後ずさる。彼女ははにかむように笑いながら一歩踏み出して、俺の胸にもたれかかって来た。そっと抱きしめると草むらの匂いがした。ふわふわ揺れる髪、細く小さな身体。背伸びしたつま先立ちの足、ふくらはぎ。おれの耳元で彼女はまたクスクスわらった。

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