坂道では自転車を降りて
昨日、倉庫を漁って、参考になる図面がないか整理してみたが、これと言ったものはなかった。今回は一から図面を引く。面倒と言えば面倒だが、一度くらいはやってみたい。多分、図面は先輩の指導で主に俺が引くことになるだろう。椎名には悪いが、椎名の引いた図面では動くどころか立ちもしないだろうから。
舞台のセットは本物と同じ大きさに作れば良い訳ではない。セットが小さいと、客席からは何だか解らないし、小さな本棚の棚が落ちても、インパクトがない。本棚は少し大きく作った方がいいと大野先輩は言った。だが、大きすぎても不自然だし、小さな舞台に大きなセットを載せたら、動ける範囲が狭くなる。遠近感なども使って不自然でない程度に大きく、そして薄く仕上げる。ただし、セットが倒れたら困るのでそれなりの土台も必要だ。体育館の壁や床にはアンカーも打てない。しかも、当日に部室から人力で運ぶ。手早く分解して運べなければならない。考えてみると条件は多かった。加えて、何度も作り直す時間も金もない。一度の設計がぶっつけ本番だ。参考になる図面と写真を熱心に探していた先輩は正しかった。ちょっと甘く見てたかな。
今回の舞台装置について、みんなで相談しながら、ブレイクタイムにコーヒー牛乳を飲んでいた。高橋が無邪気に大野先輩に話しかける。
「大野先輩は、神井先輩にチョコあげるんですよね。」
上手く出来たらだけどねといいながら、曖昧に笑う先輩に、かねてからの疑問をぶつけてみた。
「大野先輩は、なんで神井先輩と付き合ってるんですか?」
「なんでって、言われても。。さぁ?。。」
先輩は、まるで当たり前のことを聞かれた大人のように、気の抜けた返事をした。
「ぶっちゃけ、怖くないんですか?あの目。」
「あれ、怖いよな。あの目は神じゃなくて悪魔だよな。」
みんなが口々に神井先輩の目つきの悪さをあげる。