坂道では自転車を降りて

「一年の頃はもっと怖かったよ。しょっちゅう先輩と怒鳴りあってたし。」
「え~!!もっと怖かったんですか?」
「うん。」
「今は怖くないんですか?」
「ぜんぜん。普段は優しいじゃない。」
ぜんぜんってことないと思うんだが、彼女は神井の評価を少しでも上げたいらしい。当然だ。

「優しい時なんかあるか?」
「ないよな。」
「そぉかな。私が怪我した時には保健室に付き添ってくれたよ。ぞうきんも絞ってくれたり。それに、具合が悪かった時、自転車を学校に置いて、家まで送ってくれたこともあるよ。」
「へー、そんなことがあったんだ。」
「それで大野先輩、神井先輩が好きになっちゃったの?」
「そういう訳じゃ。でも、優しいというか、親切な人なんだなとは思ったよ。」
淡々と話す。照れたりしないところが彼女らしい。

「川村先輩の方が、ずっと優しかったと思いますけど。。」
高橋がまた余計なことを言う。
「。。。そうだね。」
彼女の顔が曇る。彼女にしてみれば相当大きな傷の筈だ。そう簡単には癒えないだろう。

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