坂道では自転車を降りて
「男の子に負けると悔しくて。女の子だって言われると悲しくて。すぐ、泣く自分が情けなくて。ずっと嫌だったんだ。」
彼女は荷台に腰掛けながら言った。
「。。。。」
「でも、やっぱり女の子で良かった。」
後ろから俺の背中に抱きつく。
「なんで?」
「わからないけど、最近そう思うんだ。君と一緒にいると、なんでだか、そう思うんだ。みんなに女の子だからって言われても、最近は悲しくない。今日みたいに、先帰っていいとか言われたら、昔だったら、悲しくなったかもしれない。でも、今は嬉しいんだ。皆が私を女の子として扱ってくれる事が、なんだか嬉しいんだ。不思議だね。」
彼女は俺の事なんかひとつも話してないのに、何故だかすごく嬉しくて、少し照れくさい。
「俺は、君が女の子で嬉しいけどね。」
「うん。」
「っていうか、男だったら、困るだろ。」
「そう?」
「そうだよ。なんていうか、いろいろ出来ないじゃん。」
「いろいろね。笑。」
「そう。いろいろ。笑」
「ありがとう。」
彼女が言った。
「何が?」
だって、それは俺の台詞だろ。
「帰ろ。」
「そうだな。」
もっと気の利いた事、言えたらいいのに。すごく嬉しいのに、何を言ったら良いのか分からなくて。ただ、自転車を走らせた。
それにしても、彼女に余計な事を吹き込んで不安にさせたヤツは誰だ?