坂道では自転車を降りて

「わー。神井先輩が真っ赤になってる。おもしれえ。」
「是非っ。やってみてくださいよ。」
ここでキレたらダメだ。必死で顔を作り直し、つとめて冷静に、怒らず。
「。。だっ。なっ。。。。。おっ俺は真面目に聞いてるんだけど。」
なんだか情けなくなって来た。俺はこんな風に後輩にからかわれるようなキャラではなかったはずなのに。

「そうですねぇ。。」
織田は真面目な顔で思案し始めた。
「矩尺、欲しがってましたよ。あと墨壺も。」
「矩尺って何?」
「金属製の物指しです。精度が高いし、直角に曲がってて、壁に水平な線を引いたり、板を切る時に便利なんです。墨壺は糸が入ってて、2メートルとかの長い直線が一気に引けるんです。」
「あのな。。」
冗談言ってる場合じゃなくてさ。。

「あぁ。丸鋸も欲しいって言ってたな。窓開けるのに。」
「それは彼女が欲しいものじゃなくて、裏方組が欲しいものだろ。」
「普通にスケッチブックとかで良いんじゃないですか?」
結局これかよ。そんなの誰でも分かるし、それはもうあげたよ。

「お前らに相談した俺が馬鹿だった。もういい。」
「先輩はどんなもの考えてたんですか?」
言われて、初めて考えてみる。
「俺は、、文具やスケッチブックなら、外れないんだろうだけど、ホワイトデーなのにそれでいいのかな?」
「もっと女の子っぽいものをあげたいんでしょ?」
「そうかもしれない。でも、何をあげたら良いのかさっぱりで。」
自分で言いながら、何か違和感を感じ始めた。そうだ。こいつらに聞くのは間違いだ。

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