坂道では自転車を降りて
泣かせるなって、先輩にも川村にも言われた筈だが、そんなのは不可能だと開き直ってしまってる俺を見たら、彼等はどう思うだろう。ちょっと罪悪感。彼女は拗ねた顔で横を向いた。
「本当は、さ。」
俺は彼女の頭を撫でながら優しく、できるだけ優しく言った。
「俺だって泣かせたくなんかないし、いつも笑ってて欲しいよ。でも、作り笑いで誤摩化したり、泣くのを我慢したりして欲しくないんだ。泣きたくなったら、泣いて欲しいんだ。分かる?」
「分かるけど。。嫌。」
「頑固だね。結局、すぐ泣くくせに。」
「むーっ。」
本当は、潤んだ瞳で泣くのを我慢してる時の君は、ゾクゾクするくらい可愛くて、わざと苛めてしまう時があるのは、内緒だ。
「ほら。帰るぞ。」
「はぁい。」
彼女を荷台に乗せて俺の自転車は走る。風が冷たくて顔や手は寒くても、彼女の手が触れているお腹は温かい。日は随分長くなって来て、気候も暖かい日が増えた。春はそこまで来ている。春には引退だ。そう思うと、いつまでもこの寒い日が続いて欲しいような、でも彼女と過ごす春の午後や夏の日を想像して、胸が膨らむような、すごく複雑な気分だ。