坂道では自転車を降りて

「悪い。そんな話は無意味だな。お前はお前だ。上手くやれよ。」
「。。はぁ。。」
「なんだ、気のない返事だな。」
「いえ。。分かりました。」
「なんかあるのか?」
「俺、どこ行っても悪役で、なんか、自信無いです。」
「そうなのか?」
「泣かせてばっかりだし。」
「それは聞き捨てならないな。」

 体育館の中から声がかかった。そろそろ活動に戻らないと。先輩も笠原先輩達を待たせてるだろうし。俺の愚痴なんて、本当は聞きたくないだろう。俺、甘え過ぎだ。

「だったら俺が今から口説くぞ、いいのか?」
意地悪く言う。
「それは困ります。。。それに彼女が。。。」
先輩はニヤリと笑った。

「多恵が、お前を選んだんだろ?俺でも川村でもなく、お前を。」
「。。。そうです。」
先輩を前にして、言いにくい。
「だったら、泣いたってお前を選んだあいつの責任だ。確かに、俺も清水も、多分、椎名達も、川村を良く知るやつは、あいつが気の毒だと思ってる。だから、お前らへの風当たりはきついだろう。だが、お前は多恵を手に入れたんだ。贅沢言うな。しんどいのは多恵のほうだろ。顔を上げろ。」
「そうですね。」
顔を上げろと言われて、無意識に俯いていた自分に気付く。

「お前がフラフラすんな。全力で守れ。」
「はいっ。」
思わず背筋を伸ばし、前をみた。
「なんとなくだけど俺にも分かるよ。多恵がお前を選んだ理由。だから、自信をもてよ。」
「はい。」
「じゃあな。」
「はい。ありがとうございました。」
そうだな。とにかく、俺には彼女がいる。

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