坂道では自転車を降りて
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 公演の前日、リハーサルの前に体育館裏手の駐車場で、変更した動きの確認をしていたら、電話で部室に呼び戻された。行くと藤沢が困り果てていた。

「先輩、なんとかしてくださいよ。これ。」
確かに、これは邪魔だな。作業場の真ん中で、彼女が工具箱を枕に寝ていた。俺を名指しで呼び出したのは、こういう理由か。

「なんで、こんなことになっちゃってんの?」
「単に疲れて寝ちゃったんだと思います。だいぶ前から、半分目が開いてなかったから。俺がトイレ行ってる間に、こうなってました。揺すったりはしたんですが、全然起きなくて。先輩がどけてくださいよ。」
「やっぱり、俺がやるのかな。」
「俺達で動かしてもよかったですか?迷ったんですが、さすがにこの状態で抱き上げるのは。。。後で先輩に殴られても嫌だし。」
「わかった。俺がやる。」

 腹を決めて、彼女の腕を掴み抱き上げようとした。しかし、寝ている彼女の腕はぐにゃぐにゃで、下手に引っ張ると腕が抜けそうだ。身体も、どこを掴んだら良いのか見当がつかない。うつ伏せの身体を仰向けにして、脇に手を入れると、白い首筋がのけぞり、口がうっすらと開いた。ドキッとして俺の顔に熱が集まる。目のやり場に困って藤沢の方を見ると、彼も顔を赤くして彼女の顔を見ていた。俺の視線に気付き、慌てて視線を反らす。
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