坂道では自転車を降りて
 
 膝の裏に腕を差し込み、抱き上げようと踏ん張ってみるが、そう簡単には持ち上がらない。こんなに重かったっけ?あんなに細いと思っていたウエストが今日は電信柱くらい太く感じる。やばい、持ち上がらないかも。見ていた藤沢が声をかけてくれた。

「手伝いましょうか?」
「いや、いい。」
 今更手伝ってもらうのも情けないので、頑張って立ち上がった。人って寝てるとこんなに重いんだ。以前、彼女を抱き上げた事があったけど、もう少し軽かったような気がするんだが。。彼女は抱き上げても起きる気配がない。俺の腕の中で丸くなって眠っている。柔らかくてあたたかな感触に、彼女の匂いが立ち上って、鼻血が出そうなくらい可愛い。でも重い。

 ソファに運ぼうとしたら、織田が寝ていた。倉庫でも椎名と高橋が作業をしている。
「なんだよ。何処に寝かせるんだよ。」
「ソファです。今、織田をどかします。こいつもう2時間くらい寝てるし、そろそろ作業に戻ってもらわないと。おい、織田。どけっ。お前は出番だ。」
 藤沢は上履きで織田の腹を蹴った。織田はむにゃむにゃ言いながら起き上がりソファに座ったので、空いたソファに彼女を座らせる。藤沢は彼女から目を背けたまま、すぐに作業に戻った。
「ほら、どいて。」
織田をソファから突き落とす。
「ふぁい。」

 ソファに横に寝かせると、彼女は安らかな寝息をたて始めた。脚を伸ばして、だらりと垂れた手から軍手を外し、お腹に乗せてやる。寝顔を見るのは2回目だが、こんなに間近で見るのは初めてだ。1度目はちらちらと盗み見ただけだった。今は、しようと思えばキスだってできる。こんなところで無防備に寝ちゃって。どんだけ俺をやきもきさせるんだ。柔らかそうなほっぺたには工具箱の後がついていた。髪を整えてやる。上下する胸。ピンクの頬。長い睫毛。可愛い寝顔から目が離せない。ああもうっ。これどうすんだよ。
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