坂道では自転車を降りて
まずい。まずいぞ。これで彼女が明日演技できなかったら、完全に俺のせいだ。なんで門まで送るなんていっちゃったんだ。随分前から、彼女の気持ちには気付いていた。一緒に帰ろうと言われたときに、予感もあった。なのに、何も準備してなかった。もうちょっと上手い事できなかったのか。彼女がクリスマス公演の時の俺みたいになったら。あ。
振り向くと、彼女は唖然とした表情のまま、まだそこにいた。よかった。
「生駒さん。」
「はい。」
「明日。いや今度、時間とるよ。ゆっくり話そう。いい?」
「はい。」
彼女はほっとしたような,残念そうな、でも、嬉しそうな、複雑な顔をした。
「今日は、もう帰りな。」
「分かりました。ありがとうございました。」
別れてから反省する。しくじった。最後まで聞いてやれば良かった。この状況だ。彼女は玉砕を覚悟していたはずだ。すっきり明日を迎えたかったのかもしれない。俺はまた逃げてしまった。情けない。
部室に戻る途中、高橋とすれ違う。どこへ行くのか、上履きのまま慌てて外へ出ていった。部室に戻ると皆、作業に集中していて、俺に注意を向けるものはいなかった。高橋も2分もしないうちに戻って来て、手に持っていたビニール袋を多恵に渡した。多恵は中を見て小さく頷くと、すぐに作業に戻った。その後、2時間ほどで引き戸が組み上がった。まだ肌寒い夜なのに、みんな汗だくだ。
いよいよ戸をはめて動かしてみる。しかし動くには動くが、やはりピシャリとは動かなかった。俺と原は顔を見合わせた。
「いえ、大丈夫です。」
椎名がいった。彼女がドライバーで支柱の裏のネジを何カ所か回す。もう一度試すと、引き戸はスルッと開き、ピシャリと派手な音を立てた。
「っしゃあ。」
みんながほっとし、歓声をあげた。