坂道では自転車を降りて
彼女は、その後も10回程、ネジを回しては戸をピシャリとやっていたが、納得できたのか、「ふぅっ」と息を吐いた。
「じゃあ、最後の仕上げだ。一度、扉を外して。あと新聞紙。」
彼女は高橋が持って来たビニール袋からラッカーを出した。
「ラッカー!あったんですか?」
「買って来てもらったの。摺動部分ちゃんとマスキングして。床も。」
「はい。」
塗装で動かなくなったら一大事なので、本当に見える部分だけ塗装する。でも舞台では十分だ。ラッカーの匂いの中、彼女が言った。
「明日の朝、戸をはめて、完成だね。」
「よしっ。」
全員がほっと息を吐いた。
朝早かったからだろう、彼女も今日は自転車で登校していた。2人で自転車を走らせる。何か声をかけたかったけど、自転車って話ができないんだな。曲がり角で彼女を待っていると、彼女が声をかけてきた。
「ねぇ。」
「なに?」
「もう、遅いんだけど、、ちょっとだけ、話せない?」
「わかった。」
俺は神社の裏の公園に寄った。彼女もそれに続いた。