坂道では自転車を降りて

 あらためて、彼女を眺める。この俺より一回り以上小さな身体で、昨夜から24時間、動き続けて、見事に事態を収拾した。一年しかいなかったら、多分、間に合わなかった。というよりは、決断が下せず、上手く滑らないドアで済ませただろう。
「ねぇ、私、今日はかなり頑張ったと、自分では思ってるんだけど。」
「俺もそう思うよ。大変だったね。」
「だから、もう怒らないで。」
「?俺の顔そんなに怖い?本当に何も怒ってないってば。間に合ってよかったよ。本当に。」
「うん。ちゃんと動いてよかった。明日、最後の公演だね、がんばってね。」
「うん。君もよく頑張った。さすが俺の彼女だ。」
「神井くんに褒められちゃった。すごく嬉しい。」
「本当に、君はすごいよ。俺にはできないことを、次々にやって。」
鈴木先輩は1週間かかったと言ってた。本当にこの子は。。

「。。。ごめんね。」
「何が?何も怒ってないっていってるじゃん。」
「先輩の残した図面もあったし、私、今日中に出来る見込みはあったけど、やっぱりすごいプレッシャーで。」
「うん。」
「今回の脚本書いた時、君はこんな感じだったのかなって。」
「。。。。」
「しんどかった。精神的に。」
「そうだな。」
「私にはみんながいたけど、君はひとりだったし。」
「俺にも君がいたよ。それに俺には保険があった。崖っぷち度は君の方が上だ。」
「ごめんね。無茶させて。」
「もういいよ。君もがんばった。」
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