坂道では自転車を降りて
「あー、はい。」
椎名の気の抜けた返事が、なんだかとても気の毒だった。
「あの、先輩。あのときは、、ごめんなさい。泣いちゃうなんて思ってなくて。」
「ああ、、私が泣いたのは、本当は椎名くんのせいじゃないんだ。びっくりさせてごめんね。」
「本当に、すみませんでした。」
「ううん。あやまるのは私の方なんだ。本当の事を言うとね、私、君たちに神井くんのことを言われると、川村くんのことで責められてるような気がして、辛かったの。私ひとりじゃ何もできないくせに、川村くんを辞めさせてしまった。みんなも本当は最後まで川村くんと一緒にやりたかったよね。川村くんだってそのつもりだったと思う。
私、川村くんに、本当にひどいことしたと思う。なのに私自身も、いつまでも川村くんがいない事に慣れなくて。君たちとの間にも溝ができてしまって。。。壊れちゃったんだなって、私が壊したんだなって思ったら悲しくて。だから、泣いたのは椎名くんのせいじゃないんだ。」
「。。。。。。」
椎名も織田も言葉を失っていた。
「本当に、頼りない先輩でごめんね。いつも川村くんが守ってくれてたから、私はやってこれたの。知ってた筈だけど、分かってなかった。今回もラッカーだけじゃないんだ。昨日の朝、大丈夫?ってメールが来て。。。私、我慢できなくなって電話したの。助けてって言ったら、それはダメだろって怒られちゃった。だったら『大丈夫?』なんて、メールしないで欲しいよねぇ。ふふふっ。2人してバカみたい。でもね、少し話したら、なんだか安心して、冷静になれたの。『ちゃんと出来るから、心配するな。』って、言ってくれて。。私が追い出したのに。」
部室に彼女の嗚咽が響く。
「先輩。。」
「本当に勝手だよね。私には神井くんがいるのに。。。」
彼女はひとしきり泣くと、泣き笑いしながら続けた。
「川村くんに、誰か話したの?」
「多分、高橋だと思います。」
「そっか。高橋くんは、余計な事ばっかりするな。笑。私がまた泣いたって、神井くんには内緒だよ。」