坂道では自転車を降りて
生徒が登校し始めた教室で鞄を片付けていると、椎名がやってきた。
「神井先輩。」
「どうした?」
「さっきの話、聞いてましたよね?」
「なんの話だ?」
「大野先輩が、泣いてて。。。今すぐ部室に来て下さい。」
「。。。。」
「早く。」
「俺は知らない。」
「嘘です。だって部室の前にいたんでしょ?なんで部室に入らなかったんですか。泣いてるって聞いても、怒らないんですか?お前ら、また泣かせたのかって言う筈です。」
あんなの。聞きたくなかった。。。
「俺は何も聞いてない。」
今、顔を見たら、恨みがましい目で睨んでしまうだろう。
「でも先輩すごい動揺してて。泣いてるんです。ほっとくんですか?」
彼女はよく泣くんだ。お前は知らないのか?しばらく無言でいたら、椎名がしびれを切らして言った。
「良いんですか?たったあれだけのこと許せないんですか?別れるんですか?」
別れるとか、そんな大げさな話じゃないだろ。俺は何も聞いていない。何も知らないって言ってるだろ。
「だったら、川村先輩を呼びます。今年は何組になったんですか。」
「そんなことしたら余計ややこしくなるだろ。これ以上、ヤツを振り回すな。」
「なら、先輩が来てくださいよ。」
仕方なく立ち上がり椎名について部室へ向かう。
「泣くようなことじゃないだろ。彼女の問題じゃないか。」
「いいから、早く。」
「俺が行ったって、」
どんな顔していいかわからないよ。