坂道では自転車を降りて
「嘘だ。ごめん。俺って本当にヘタレで、ダメだな。」
「?」
「聞いてた。聞こえてた。立ち聞きするつもりはなかったんだ。ただ、入れなくなってしまって。ごめん。」
彼女の顔から作り笑いが消えた。そして、悲しげな瞳を伏せてふるふると首を振った。俺は彼女に歩み寄り、その頭に手をのせた。小さな頭。
「川村に電話したんだね。君から。」
彼女はこくりと頷いた。全て許そうと思っているのに、思わず手に力が籠もる。彼女がブルブル震えだした。怯えている。
「あいつと話したら、パニクってたのが、落ち着いたんだ。」
彼女は今度は頷かなかった。緊張して棒のようになった身体。目からぽろぽろと涙がこぼれはじめた。こんな風に責めるつもりでここに来たんじゃないのに。俺は気持ちを切り替える為に、深く息をはいた。
「君にとって川村が特別だってことは事は、もう知ってる。こんなことになって、負い目があることも分かってる。正直、なんで俺なのかなって、常に思ってるよ。」
彼女の心が今でもこれほど川村を頼りにしていて、そのことで苦しんでいたと知ったのは、やはりショックだった。
「それでも、君は俺と一緒にいてくれるって、言ったよね?悲しくなったら一緒に泣こうって言ったら、うんって言ってくれたよね?」
彼女は俯いたまま、何度も頷いた。彼女は神に祈るように両手を組んでいた。俺は彼女を抱き寄せた。
「このまま、最後の公演を終えてしまうのは嫌なんだ。」
「が。かり、させ、て、ごめ、な、さ。」
「がっかりか。そうだな。君にとって川村が、いまでも、そんなに大きかったと知って、やっぱりショックだった。それに、俺には話してくれなかったのに、彼奴らにそれを話したのも、すごくがっかりした。昨日、公園で言ってくれた事は嘘だったのかとも思った。」
「ご、めん、なさ、い。」