坂道では自転車を降りて
「でも、もういいよ。昨日、君が公園で甘えてくれた時、本当に嬉しかった。君が好きなんだ。君も俺を好きだと信じてる。それとも君は、、本当は、まだ迷ってる?やっぱり川村のところへ行きたくなった?」
それだけは、このままにしておいたらダメだ。もしそうなら、これ以上嘘を重ねてもお互いに傷つくだけだ。
「行っても、、、いいよ。怒らないし、嫌いにもならないよ。」
身体が震えて上手く声が出ない。自分で言っててすごく苦しい、息が出来ない。だけど、もし、本当にそうなら、俺は一日でも早く、彼女をあいつに返さなくては。
返事の代わりに、彼女はぶんぶんと首を横に振った。
「かみい、くん、が、すき。神井くんと、一緒にいたい。」
よかった。思わず大きく息を吐いた。
「だったら、何の問題もないじゃん。泣かないでよ。」
彼女は腕の中でこくこくと頷いた。
「ほら、もう授業が始まる。いかないと。」
俺は彼女の顔を覗き込んで、涙をハンカチで拭い、優しく抱きしめた。頬を寄せて額にキスした。
「うん。」
「大丈夫?行かれる?」
「うん。」
しっかりと気持ちを繋げて、同じ気持ちで最後の公演にのぞみたかった。一緒に書いた本だ。そして一緒に作り上げる最後の舞台。
放課後の本番、俺は舞台に立ち、彼女は照明装置を動かした。彼女と後輩で作った舞台装置。2人で書いてみんなで作り上げた脚本。いろんなものが一つに合わさって1本の舞台ができあがる。この舞台を見た一年生の何人かが、新しい部員になる。
楽しかった。舞台のできがどうだったかはよくわからなかったし、どうでもよかった。ただ、とても楽しかった。拍手の中で緞帳が降りる時、今までの沢山の思い出が巡って、不覚にも涙が出そうになってしまった。今日で引退だ。