坂道では自転車を降りて

 お開きの後、会計を済ませ、二次会に行くの行かないので店の前で騒いでいた時だった。
「先輩!大野先輩!」
デカい声で椎名が多恵を呼んでいる。何事かと思ってそちらを見たら、
「俺、、好きですっ。」
椎名は叫んで、彼女をぎゅっと抱き締めた。
「あっ。あいつ本当にやりやがっった。」
「俺達も行く?」
「そりゃ、行くだろ。」
 俺の背後に立っていた織田と藤沢も、彼女のところへ走って行った。多恵は男子4人に代わる代わる抱きしめられて、訳が分からず、目を回していた。呆然としたまま彼女は最後、俺のところへ連れてこられた。

「スミマセン。みんな、一度やってみたかったんです。」
織田に無邪気に言われて、二の句が継げない。
「おまえらっ。。。。。今日だけだぞ。」
我に返った彼女は俺の背中に隠れて、みーみーと泣き出した。
「び、、びっくりした。。みんな、、大きくて、力も強くて、、こっ怖かった。もぉ。。びっくりしたぁぁ。」
でっかいのは先輩だけで、後輩は自分より小さいとでも思っていたのか。思っていたんだろうな。

「すみません。椎名が今朝、頑張って告白したのに、あっさりスルーされたから、拗ねてて。」
 織田がなんとかフォローしてるけど、彼女は怯えて俺の後ろに隠れたまま、潤んだ瞳で織田を睨みつけた。これはこれで可愛いが。
「あっ。その顔可愛い。いただきです。」
織田が首にぶら下げていたカメラで彼女の写真を撮ろうとしたので、彼女は素早く俺の背中に隠れた。
「大野さんは、多分、何の事か全く分かってないよ。」
代わりに俺が答える。
「知ってます。椎名も分かってると思いますが、我慢できなかったんじゃないですか。笑。」

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