坂道では自転車を降りて

正直どれもすごく欲しい。だが、、ここで欲しいと言ったら、消せと言えなくなる。いや、消してもらう程のきわどい写真でもないか。。
 だが、これらの写真を撮ったのが藤沢や織田だという事実に腹が立つ。なんなんだあいつは。どうして、ここまで無防備な姿を後輩に晒せるのか。
「ちっ。」
眉間に皺を寄せて、軽く舌打ちすると、
「神井先輩も大変ですね。」
織田は同情の目を俺に向けた。

「もう一枚、とっておきがありますけど、見ます?」
とっておきだと?
「これは、先輩でも見る事はあっても、写真には撮れないと思うなー。椎名は見るよな?」
織田は椎名にだけカメラを渡した。
「。。。。。。」
椎名は写真を見ると、一瞬険しい顔をして、言葉を失った。しだいに顔が紅くなり、何度も視線を泳がせた。

「こんなのいつ撮ったの?」
「それは、今は言えない。先輩も見ます?」
見たら負けだ。だが、これを我慢できるヤツがいるだろうか。
「。。。。。見る。」

 写真の中の彼女は泣いていた。正確には泣いた後だ。潤んで赤い目、濡れた唇を引き結んで。虚空を見つめていた。見ているだけで切なくなって、身体が熱を持つ。いったい、いつ撮った写真だろう。
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