坂道では自転車を降りて

「ありがとう。」俺は言った。
「?へ? この状況で、ありがとうは私が言うんじゃないかな?」
「だな。でも、なんでだろう、言いたくなったんだ。」
「変なの。」
「いいだろ。」
「私こそ、ありがとう。いつも送ってくれて、一緒にいてくれて。すごく嬉しいよ。」
「ふふっ。」

俺は立ち止まって、彼女の鞄と、自分の鞄を道路脇に置いた。
「まだ、お腹痛い?」
言いながら、彼女の顔を覗き込む。
「痛いよ。でも少しなら大丈夫。」
「よかった。」
ぎゅっと抱きしめると、彼女は嬉しそうに身体を俺に預けた。ゆっくりと、優しいキスをする。嬉しそうに笑う彼女。

「さあ、帰ろう。」
鞄を持ってまた歩き始めた。
「うん。また明日ね。」
程なく、家の前についた。
「お休み。ゆっくり休んで。」
「おやすみなさい。」
手を振って別れる。しばらく歩いて振り返ると、月明かりの中、彼女はまだ路上に立っていた。早く家に入れと手振りで伝えると、また手を振った。きっと俺が見えなくなるまであそこにいるんだろう。仕方ないから、俺は走った。彼女の視線を背中に感じる。息が切れる。身体が熱い。でも、すごく気持ちいい。



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