坂道では自転車を降りて
正直、ちょっと、やな気分

 引退公演も終わり、いよいよ俺たちは受験生になった。学校と自宅で勉強付けの毎日。俺は将来の夢として脚本家や小説家を思い浮かべていたが、どちらも安定した職業とは言えない。最近は待遇も悪くなっているようで、どうやら先行きが暗い。新聞や雑誌の記者も文を書くけれど、俺の書きたいものとは違う気がした。
 小説家の多くは、たいてい文筆とは関係のない学部を出て、関係ない仕事をしながら書き始めて、認められてから本腰を入れるといった具合だ。理学部や工学部出身の小説家も少なくない。大学でまた何か見つかるかもしれない。当面は国立の文学部狙いで、勉強を進めることにした。
 国立ならばセンター試験を受けねばならない。数学や理科も勉強しなければならなかったが、勉強はしておいて損はない。(そう考えられる事が進学校生だなって我ながら思う。)どうせなら哲学とか、社会に出てからはやれない勉強をしたい。どこかの劇団に所属して、休みには知らない国を旅行したりもしてみたい。学生でなければできないことだ。ありがたいことに関東一円には公立だけでも様々な大学があるし、劇団だってある。

 俺は文系で彼女は理系なので同じクラスにはなりようがないが、彼女と川村が同じクラスにならなかったのには、心底ホッとした。川村だって同じ気持ちだろう。俺は原とは離れたが、北村さんとまた同じクラスになってしまった。
 俺は予備校には通わない。経済的な理由もあるが、通うだけではあまり意味がなさそうだと、彼女も言っていた。結局、勉強は自分がやるかやらないかなのだ。俺は、予備校で彼女と同じ講義を数学部の田崎が受けていると聞いて、少し嫌な気分になったが、300人からの講義で、いるかいないかも分からないというので、考えない事にした。

 彼女とは、図書室で会ったり、一緒に下校するようになり、かえって会う時間が増えたような気がする。2人の下校時間の重なる水曜日、俺たちは明るい道を自転車を押しながら歩いて帰る。自転車で15分の道は、歩くと45分程。途中公園に立ち寄っておしゃべりしたりするときは、うっかりすると2時間を超えてしまう。何をするわけでもないのに、やたら楽しい。

 もちろん、身体に触れたりキスしたりも本当はすごくしたくて、すれば満足するんだろうけど、一度手をだしてしまったら、きっと会う度求めて、止まらなくなる。彼女をこれ以上汚してしまいたくなくて、手を出せないでいた。昼の明るい公園は、時々小学生とか子供が遊んでいて、そんな気が起こらないというのもあったけど。


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