坂道では自転車を降りて
「モデルの顔や表情はおいといて、基本はこんな感じです。あとはいかにモデルの表情を引き出すかですけど、それはもう俺にも分からない。俺はいつも目の前にいた人をそのまま撮ってるだけだから。」
その後、織田と北村さんと林、今西と彼女と俺とで、なんとなく二組に分かれて、お互いの写真を撮ったり、植物を撮ったりしていた。
休憩がてら昼飯を食べる。北村さんは織田が気に入ったのかやたらと話しかけている。言われてみれば織田の顔は田崎と同じ系統だ。北村さんの好みは分かりやすいな。
多恵は俺と話したそうだったけど、彼女から離れようとしない今西に気を遣ってか、今西の話題を俺に振った。
「神井くんは今西くん知らないよね?」
「多恵は、知ってたの?」
「文化祭で写真を見たよ。江ノ島近くの風景が沢山あって、見てたら説明してくれたんだ。」
「へぇ。。」
「私、今西くんの写真、好きだよ。文化祭の月と海の写真、すごくキレイだった。何度も通って時間かけて撮ったんでしょ。」
「分かるんですか?」
「富士山の写真もそう。江ノ島の橋の上から撮ったやつ。夕日があそこにくる時期って限られてるし、空気が澄んでないとダメでしょ。お天気に、時期や時刻。全部が揃うのって、偶然じゃなさそう。好きな景色なの?」
「最初は偶然、見たんです。でもその時は上手く撮れなくて、だから通って、結局一年くらいかかりました。」
「私、昔あの近くに住んでたから、すごく懐かしくて。」
「そうなんですか。」
今西はやたら赤い顔をしている。多恵を狙うどころか、どう見ても女子に慣れてない。写真部には女子がいないのか?いや、いるよな。いつの間にか彼女は今西の写真を撮っていた。