坂道では自転車を降りて
「カメラはほらこう構えるの。んで、ここを回すと画面が変わるでしょ?撮るときは脇を締めてカメラが動かないように。」
言われたようにカメラを構えると、確かにカメラが身体にフィットする感じだ。なんか、それだけで上手くなったような気分。それに、レンズを手で回すだけで、彼女がぐわっと近づいたり遠ざかったりするから、すごく面白い。
「面白いな。これ。」
「神井先輩、こっち来て。」
彼女を撮っていた織田に呼ばれる。
「俺の後ろに立って、大野先輩にカメラ向けて。」
なんだか分からんが言われた通りにする。ブロックの上から見下ろした彼女は、少し幼く見えた。ファインダーをのぞくと、彼女がすごく近づいて見えた。望遠だからというよりは、周囲が見えなくなるからかもしれない。
「呼んで。」
「は?」
「こっち見るように言って。」
「多恵、こっち向いて。」
彼女はこっちをみて、はにかみながら笑った。
(やられた。今胸がドキューンてなった。)
以前どこかで聞いた飯田の声が頭の中でこだました。やられた。間違いなく、今、俺もドキューンてなった。彼女は恥ずかしそうに一度、視線を外してまたこっちを見て照れ笑いする。うわ。うわ。なんだこれ。