坂道では自転車を降りて
「どうです。いいの撮れました?」
「あ、、撮るの忘れた。」
「何やってんすか。もうっ。絶対そっちのカメラに視線向いてたのに。今、すごい良い顔してましたよ。」
「ごめん。」
「まあ、いいや。どうせ俺のじゃないし。でも、分かりました?」
「ああ、面白い。すごく。」
その後も、俺達はあちこちで彼女と北村さんを撮り、彼女は植物を見たりしながら午後を過ごした。彼女は俺がカメラを向けると、いつもチラリとこっちを見て、肩を竦ませて恥ずかしそうに笑った。その度に、俺の心臓が跳ねた。
しばらくそうしていたら、織田がすみません。と俺に声を掛けた。
「やっぱり、大野先輩、ちゃんと借りていいですか?俺だけで撮りたいんですけど。。」
申し訳なさそうに言って、さっきの温室に彼女を連れて戻って行く。俺はなんとなく付いて行こうとしたが、止めた方が良いと林に止められた。そんなこと言われたって、俺の彼女だぞ。仕方ないので遠目でみていると、織田は彼女とあれこれ相談して撮り始めた。
俺は温室の隅の少し離れたところで隠れるように彼等を見ていた。何かポーズを撮らされている。最初は硬い表情をしていたが、すぐに柔らかく笑うようになった。さっきまでとは明らかに違う様子で彼女が動く。意味ありげな表情と動き。織田は真剣な表情で、ファインダー越しに彼女を追いかける。織田の口元に笑みが現れると、彼女の動きが少しずつ大胆になって行く。
織田の視線に射抜かれたように、彼女の意識はカメラにつなぎ止められている。まるで織田に操られているようだ。2人は最初こそ言葉を交わしていたが、次第に何も話さなくなった。それと相反するように、2人がしだいに強く繋がっていくのが分かる。シャッター音はきっと絶え間なくなっているに違いない。視線と意識を絡め合いながら動く様は、まるで睦み合っているようにも見えた。