坂道では自転車を降りて

 大した時間ではなかった。と思う。俺達はまた合流した。外のベンチでジュースとソフトクリームで休憩する。

「最初、椎名も呼んでやろうかと思ってたんだけど、呼ばなくてよかったです。」
「なんで?」
「今日の大野先輩、女の子全開なんだもん。こんな先輩を見せられたら、ちょっと立ち直れないんじゃないですか。可哀想すぎます。」
「えーっ。いつもと同じだよ。ねぇ。」
ねぇ、ってこっち見られても。
「そりゃあ、神井先輩にとってはいつもと同じかもしれませんがね。」

 確かに、今日の彼女は、自然と俺の方を見て、よく話しかけてくれる。部活のときとは明らかに違うし、2人だけの時とも少し違う。ちょっと甘えた視線、目が合うとはにかむように笑って、可愛らしい女の子の印象だ。
「そういえば椎名くん舞台監督になって張り切ってるみたいね。見学の一年生に、すごく真面目に対応してるの見たよ。」

 恥ずかしいのか、彼女は話題を変えた。彼女が今でもたまに部室に顔を出しているとは、知らなかった。
「ですね。裏方に女子が入りそうなんですよ。音響ですけど。でも、あいつがまたセクハラしないか、心配で。」
「それは、織田くんがビシっと締めとかないと、まずいね。」
「ですねぇ。俺、今のうちに写真を撮りたいんだけどなぁ。」
「そっか。うーん。でも音響だったら高橋くんでしょ。藤沢くんが見てくれるかな。ちょっと心配。その子が慣れるまで、最初だけでもみといたほうが。」
「ですねぇ。。」
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