坂道では自転車を降りて
目と目が合う。彼女の瞳は瞬きを繰り返しながら、視線は俺の左右の目の中を行ったり来たりした。
「何?」
彼女はもう分かってる。でも分からないフリをしている。無邪気さ全開の演技で俺の瞳を覗き込む。目を逸らしたら、戸惑ったら、分かってる事を認める事になるから。はっきりNoと言わなければならなくなるから。
「キス。」
「いいけど、舐め回さないでよ。」
ホッとした顔で、笑いながら言った。
「ごめん。」
本当はキスなんかじゃない。君だってもう分かってる筈だ。俺、多恵としたいよ。君と繋がりたいよ。だって、切ないよ。切なくて死んじゃうよ。俺がいるのに、他の男と平気で出かける君。君は、俺が他の女の子と出かけても平気なの?君は何も分かってない。多恵、もっと俺を好きになってよ。もっともっと好きになってよ。お願いだよ。多恵。
俺はもう一度、彼女にキスすると、彼女から離れて立ち上がった。これ以上ここにいたら、多分、彼女を泣かせてしまう。
「帰ろうか。」
「うん。」
朦朧とした頭で、公園を出ようとしたとき、彼女が聞いた。
「大丈夫?」
「ん? あぁ。大丈夫だよ。」
それ以外、何て言えばいいんだよ。
「私、、本当に来週、君の部屋に行くの?」
「。。。やめとく?」
やっぱり、怖がらせちゃったか。
「。。。。。うん。」
「分かった。」
俺が手を伸ばすほどに、君は遠ざかって行く。
「。。。。大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
もう聞くなよ。黙っててくれ。
「私、神井くんが好きだよ。」
「わかってるから、言わなくていいよ。」
今は、何を聞いても嘘に聞こえてしまう。何も聞きたくない。早く1人になりたかった。