坂道では自転車を降りて

「そうだね。やっぱり来週にしようか。」
「あぁ。。。」
来週ウチに来るって、言いに来たのか。
「じゃあ。またね。」
言いたい事を言い終えたからか、ニコニコ笑って、自転車に乗ろうとする。良いのか?このまま返しちゃっていいのか。せっかく来てくれたのに。それに、来週までにやっぱり気が変わったりしないか?
「待って。やっぱり、来て。いいよ。今行こう。俺んち。」

 玄関に手をかける。自分の家に入るのに、この緊張感はなんだ。後ろを見ると、彼女もやたら緊張している様子で、俺の顔を見ると、ひきつった顔で笑った。
「だたいま。」
「お帰りなさい。あの子に会えた?」
さっきと全く同じ台詞が帰って来た。

「あー、とりあえず上がって、ここでちょっと待ってて。」
彼女をリビングに通すと、キッチンへ顔を出す。
「連れて来た。リビングに通したよ。」
母さんの後ろ姿に伝えて、すぐにリビングに戻る。
「えっ?」
後ろから疑問符が追いかけて来たけど、面倒だから無視した。リビングに所在無さげに立っている彼女に声をかける。
「俺、ちょっと部屋片付けてくるから。そこ座って待ってて。」
「あまり時間ないし、別に片付けなくても。。」
彼女はすがるような目で言った。確かに、いきなり寒々としたリビングで1人で待てと言われても、心細いのだろう。
「いや、マズいものがないか見てくるだけ。すぐ戻るから。」
 俺は急いで階段を上がった。階下から母さんの裏返った声が聞こえてくる。顔出さなくたっていいのに。突然、彼女が来て動転してるんだろう。部屋は朝散らかした衣類以外は、まあ問題なかった。さっさと衣類を片付けてリビングに戻る。いきなり母さんと2人じゃあ、彼女も母さんも困ってるだろう。

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