坂道では自転車を降りて
「なんとなく勢いで買う事が多いからな。だから、気に入った本が並んでる訳じゃないんだ。」
「こんな軽いのも読むんだ。」
ライトノベルの文庫を指して言った。
「読むよ。普通に。」
「もっと難しいのばっかりかと思ってた。」
そこまで話すと、彼女は黙って目を閉じた。身体に回した俺の腕に手をかけて、じっとしている。柔らかに弾む身体。温かくて彼女の匂いがする。静かに息づいている。俺は訊いてみた。
「どうして、来てくれたの?」
「時間があったから。それに、君の部屋も見てみたかったし。」
「そう。」
「神井くん。」
「うん?」
彼女はこちらに向き直って、俺の顔をみた。目が合うと恥ずかしいのかはにかむように笑って、俯いた。この笑顔に俺は弱い。どうしたらいいか分からなくなる。彼女は緊張をほぐすように、大きく息を吐いた。