坂道では自転車を降りて

「でも、神井くんが、今したいなら、それでもいいよ。きっと後悔しない。それで分かる事もあるかもしれないし。」
 そのまま俺の胸に顔を埋める。ああもう、なんでこんなに俺を悩ませるような事ばかり。
 彼女の言ってることは解る。理性的な彼女の言いそうな事だ。だけど、何もかも解り合ってからでなければいけない訳でもないし、付き合い始めてもう半年以上も経ってる。十分ゆっくりなんじゃないか?それも解ってるから、してもかまわないと言うんだろう。でも、出来ればまだしたくないと。

「うん。分かった。」
 判断をゆだねられてしまった。どうしたもんだろう。
 ドアをノックする音が聞こえた。母さんだ。とっさに彼女を離す。ドア閉まってるし、まさか勝手に開けたりしないだろうけど、なんとなく後ろめたい。
「お茶が入りました。」
俺がドアを開けると、母さんが部屋を覗き込みながら言う。
「ありがとう。」
入り口に立って、ブロック。
「ありがとうございます。」
ドアの裏から彼女が顔を出したのを見て、母は愛想笑いを浮かべた。

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