坂道では自転車を降りて
 部室からは物音ひとつしなくなった。彼女の泣き声だけが聞こえる。何かされてる様子はないけど、見えないことにはなんとも言えない。まさか、服脱がされたりとか、してないよな。
「ごめん。」
先輩が言った。優しい声だ。
「怖かっただろ?」
彼女の声は嗚咽からしゃくりあげるような声に変わっていた。
「分かってるか? 多恵は女の子なんだ。 で、俺たちは男なんだ。」

先輩の声は優しいというよりは、悲しそうに聞こえた。
「多恵が自分が女の子だってことにコンプレックスを持ってるのは、知ってる。今は恋愛や異性に興味がないのも、それはそれでいいんだ。でも、今みたいに無防備なままでは、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりしないか、心配なんだ。もう少し、その、自分が女の子だってことを、大事にというか、わかってくれないか?それと、俺たちのことも。」
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