坂道では自転車を降りて

 君は、本当に悪魔みたいなやつだな。彼女を苛めたくなって、ベッドに押し倒して組み敷いた。両手を押さえて逃れられないようにして、口づける。少し怯えたような表情に背筋がゾクッとする。口を塞いで、舌を差し込んで、上顎や口腔中を蹂躙しながら、奥に逃げる舌を絡めとり吸い上げる。俺の唾液が彼女の口に流れ込む。彼女は未だにキスの時に息を止めている。上手に鼻で息ができないらしい。息苦しさで彼女が暴れ始めた。押さえつけて、限界まで続ける。まるでレイプだ。
 唇を解放すると、溺れかけた人みたいに、潤んだ目を閉じ全身で呼吸をしている。首筋を舐め上げるとビクビクと震えて、苦しそうに喘いだ。彼女の呼吸が整うのを待たずに、服の上から腰や胸に触る。相変わらず柔らかくて温かい。彼女の顔が羞恥に紅く染まり、切なげに苦しそうに歪むから、すぐにブラウスをまくって手を入れたくなった。彼女にはもう抵抗する力なんて残ってない。クルクルと長い睫毛のついた瞼を閉じて、呼吸で胸を上下させながら、俺の指先に反応する。声を殺して喘ぐ姿が、可愛くて愛おしい。ちくしょう。なんでこんなに可愛いんだよ。ズルいだろ。

 不意にノックの音が聞こえた。え、俺の部屋か?今、ノックの音聞こえたよな。
「何?」
慌てて返事をする。
「夕飯、どうするの?」
やっぱり母さんだ。ドアの外にいるらしい。
 俺は彼女を慌てて抱き起こすと、座らせた。彼女はまだ苦しそうにしてたけど、俺はドアを開けた。
「何?」
「もう7時過ぎだけど。大野さん、お家の方心配してないかしら?もし大丈夫なら、夕飯をウチで食べて帰る?」
「あ、いや多分。。。」
彼女を見ると、要らないと手を振った。

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