坂道では自転車を降りて

 彼女はため息をついてまた問題集に向かったので、俺も自分の勉強に戻った。しばらくして、彼女に目をやると、彼女は今度は問題集に俺の横顔を落書きしていた。
「おい。何やってんだよ。」
俺の怒りを含んだ声にビビった彼女は、居住まいを正し慌てて言った。
「やります。やります。勉強します。」
「それでよくあんな成績が取れるな。」
マジであきれてしまった。やる気あるのか?

 しかたないので、俺はこの前やってよくわからなかった数学の問題を教えてもらう事にした。彼女にとっても落書きしているよりはマシな筈だ。驚いた事に、彼女は問題を見ただけで、すぐに正解を口にした。だが、彼女の説明は、巻末の模範解答よりも不親切で、何故その回答が思いつくのかが、解らない俺にとっては、何の意味もなかった。彼女は俺が何故、回答手順を思いつかないのかもわからなければ、自分が何故解るのかも、意識した事がないらしい。かなり混乱していた。多分、英語に関しては逆になってる。要するに頭の作りが違うのだ。お互いに。2人で顔を見合わせて苦笑いしてしまった。

「ちょっと待ってて。よく考えるから。他にも解けないのあった?」
「ありがとう。悪いな。」
そうは言ったが、あまり期待できない気がした。
「いいよ。理解も深まるし、落書きよりはマシでしょ。」
頭の中読まれたか?
「俺は、もうちょっと君に合う英語の問題集を探しとくよ。難しいと思った時は少し戻った方がいいよ。」
「そうだね。ありがとう。」
 その後も数学を教えてもらった。彼女は模範解答を熟読し、ゆっくりと俺が分かるところまで戻って、丁寧に教えてくれるようになったので、俺も少しは解ったような気がして来た。

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