坂道では自転車を降りて
なんで織田?

 なんとなくできたルールだが、必ず一緒に帰るのは水曜日。その日、一緒に帰れないときは連絡する。それ以外の日は、都合が合えば一緒に帰ることもあるけど、下校時刻も違うし、1人の時間や、友達との時間だって大事だ。

 最近、6時間目に彼女のクラスの教室が空き部屋になる日には、彼女はクラスの女子と自習や雑談をしながら残っていることが増えた。その日、俺が6限の授業を終えて教室を覗くと、彼女は雑談をしながら友達に髪を結ってもらっていた。友達のリップに関するコメントを求められて、イマイチな返事をしたらしい。お世辞でも似合うって言えば良いのに、彼女はいつも自分が思ったことを正直に言う。真面目すぎるコメントにしらけた雰囲気が起こることもある。でも、この仲間ではそういう彼女のコメントが許されている様子だった。
 皆で回し読みしているのは、女性雑誌だ。彼女の教室は理系女子のたまり場になっていて、男子はなんとなく居づらい雰囲気になっているのか、最近この時間にはいつも女子しかいない。理系クラスは5クラス中の3クラスが男子クラスだ。女子は2つのクラスに集められている。みな進路も近いし、理系女子同士でテンポが合うのかもしれない。これまでのクラスや演劇部での女子との関わりとは明らかに親密さが違って見えた。仲良く笑い合う姿は、禁断の園を覗き見ているような気分がする。

 俺の姿を見つけた子が彼女に声をかける。俺が頷くと、彼女は嬉しそうに笑い、皆に挨拶をして席を立った。
「もういいの?」
「楽しいけど、キリがないから。今日は全然、勉強になってないし。」
「楽しそうだね。」
「うん。なんか、今年のクラスの友達には、なんとなく受け入れられてる感じがするの。こういうのを気が置けないっていうのかな。」
「かもね。」
 この時間に彼女を誘うのはもうやめようかなとも思う。友達と楽しそうな彼女を途中で連れ出すのはすごく気が引ける。でも、楽しそうな彼女を一目見たくなって、つい彼女の教室に顔を出してしまう。

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