坂道では自転車を降りて
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 神井先輩は帰るといって部室を出て行った。大野先輩が見つからなかっただけであのしょぼくれよう。神井先輩も大変だけど、大野先輩も大変だな。そんなに会いたきゃ電話したらいいのにと思いつつ、相手は大野先輩だ。大した用もないのに電話したら、きっと「なんで?」とか聞かれて、恥ずかしい展開になるんだろう。解ってるから電話も出来ないんだ。可哀想な神井先輩を見ながら、みんな心の中で笑いをかみ殺していた。

「神井先輩って、デビルマンみたい。」
 突然、宮本さんが言った。椎名のセクハラにもめげず入部した一年生の女の子だ。この子もかなり変わっている。でも小柄でよく笑って、弾むような声が癒されるというか、結構可愛くて、裏方組のマスコット的存在になりつつある。だが、言う事に結構な毒が混じるのは大野先輩と同じだ。
「目つき凶悪なのに、好きな子には弱くて。敵を笑いながら虐殺しておいて、終わると『美樹ちゃん、勝ったよ。』とか言っちゃうの。笑。ねぇ、似てない?」
 ケラケラと笑いながら言う。彼女の毒は大野先輩よりも強そうだ。俺達は顔を見合わせた。部室にはいろんな漫画が置いてある。最近流行の漫画の他に、演劇部には必須の少女漫画「ガラスの仮面」手塚治虫の「七色インコ」。「スラムダンク」や「ドラボンボール」がそれぞれ数冊。加えて何故か「デビルマン」や「火の鳥」など、かなり古い漫画が沢山残っていて、我が母校と演劇部の歴史の古さを物語っている。彼女がデビルマンを読むのは、まあ良いとして、2年も年上の先輩に向かって、あれはあまりにもな失礼なコメントだ。しかもタメ口だし。
 しかし、俺達は神井先輩と大野先輩に重ねて、結局、笑ってしまった。デビルマンね。確かにそっくりだ。

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