坂道では自転車を降りて
 彼女はまだ泣いてるのかな。部室からは何も聞こえなくなって随分経った。
「さて、帰るか。」
 唐突に先輩が言うのが聞こえた。やばいっ出てくる。俺と川村は顔を見合わせ、慌てて隣の男子トイレに飛び込んだ。

 しばらくするとドアが開いて、大野多恵が現れた。彼女は流しに向かって走って行った。走り去る後ろ姿を川村と二人で見送る。俺達も帰るかな。思いながら振り向くと、すぐ後ろに先輩が立っていた。背筋が凍り付く。

「まだいたのか。良い趣味だな。」
「すみません。」
川村は叫んで一目散に逃げ出した。
「あの俺、鞄が。。。いえ、やっぱり帰ります。」
俺も走って逃げた。

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