坂道では自転車を降りて
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演劇部を後にした俺は、なんとなくそのまま帰宅する気になれず、図書室へ向かった。彼女がいるかもしれないという淡い期待は、すぐに裏切られた。最上階にある図書館は、初夏の午後には暑くなってしまい、勉強にはあまり適していない。司書だけが、冷房の効いた司書室で何か作業をしていた。でも、少し勉強して帰ろう。明日の予習くらいはできる。
彼女はまだ校内のどこかにいるのかな。もう少ししたら電話してみようか。我ながら女々しいというか、なんだかストーカーみたいだなと思う。少し顔を見るだけのつもりが、いないと分かると会いたくて仕方なくなってしまった。ちょうどいいから勉強して、時間を合わせて一緒に帰るだけだ。恋人同士なんだから当然だ。自分に言い訳しながら、本当に重症だなと、思わず苦笑いしてしまう。図書室にいると彼女にメールを送り、俺は教科書に向かった。
ひとしきり予習を終わらせ時計を見る。まだ1時間経っていない。でも、もうやる事もなくなってしまったし、暑くてこれ以上ここにいる気がしなかった。彼女からは電話もメールの返事もなかった。メールに気付いてないのかもしれないと思い電話してみたが、彼女は電話に出なかった。もう家に帰ったのかもしれない。仕方ないので自分も帰る事にする。
荷物を片付けて図書室を後にする。昇降口で外履きに履き替えながら、俺の靴に時々いたずらをする彼女の事を思い出す。ふと彼女の下駄箱を覗いてみたくなった。もう帰ったのなら仕方ないけど、まだ学校に居るなら。下駄箱を覗くと、革靴が入っていた。まだ校内にいるんだ。何をしてるんだろう。もう一度だけと自分に言い訳しながら、電話を鳴らす。ずいぶんコールしてから、電話は繋がった。嬉しいのと安堵が混じって、頬が緩む。