坂道では自転車を降りて

織田はやっぱりと言った調子でため息をついた。
「スミマセン。でも俺、先輩に口止めされてて。先輩、なんて言ってました。」
口止めまでしてるのか。本当に何があったんだ?

「何も。何も無かったとしか言わない。でも違うんだろ?何かあったんだろ?」
「そんな大した事があったわけでは、ないと思うんですが。。」
「はっきり言えよ。」
「すみません。それは言えないんです。」
「だったら、お前はなんで電話してきたの?俺にどうしろと?」
「側にいてあげてくださいよ。ちゃんとその、抱き締めてあげてくださいよ。」
「何も聞かずに信じて側にいろって?笑ってろって?俺が、そんな出来た人間に見える?」
「でも、大野先輩は多分、何も悪くないんです。平気な顔してるかもしれないけど、かなりショックを受けていました。だから神井先輩は優しくしてあげて下さい。」
「あいつ、今回は平気な顔もできてないみたいよ。それも演技かもしれないけど。あいつはいつも、にっこり笑ってしれっと嘘つくんだよ。俺はもう何を信じたら良いのか分からないよ。」
「。。。。。。」
織田は黙り込んでしまった。

「なんか言えよ。」
「悪いのは俺と、、今西なんです。」
そうだ。その今西ってやつだ。大して親しくもないくせに、馴れ馴れしく何度も多恵に会いに来ていたらしいじゃないか。ホイホイ応じる多恵だっておかしいだろ。

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