坂道では自転車を降りて

「それであんなに動揺して、、泣いたのか。」
「すみませんっ」
俺が床に手をついて謝ると、先輩は俺を蹴ろうとしたが、寸前で思いとどまったらしい。脚が俺の頭をかすめて地面を叩いた。背筋を冷たいものが走る。
「お前が俺に謝ったって、何にもなんねぇだろっ。」
手近にあった机を乱暴に突き飛ばして叫んだ。
「すみません。」
それ以外言えなくて、もう一度言ったけど、先輩はもう聞こえてないみたいだった。
「多恵。。」

 神井先輩は混乱したままフラフラと教室を出て行ってしまった。先輩の鞄だけが残る。これ、どうするんだ?神井先輩は大野先輩の所へ行くんだろうか。
 何故だか姉さんの顔が浮かんだ。姉さんも自分にこんなことがあっても彼には言わないだろうと言った。多分、親にも、もちろん俺にも。悪いのは自分だと考えるだろうと。

 しばらくして神井先輩が戻って来た。
「さっき、写真撮られたって言ってなかった?」
「言いました。」
「その写真は、どうなったの?」
「俺と沼田先輩で全部消去しました。タブレットも。念のため自宅のPCも携帯も全部。」
「どんな写真だったか、お前は見たの?」
「。。。カメラに残ってたのは、ちょっと見たけど。いかがわしいという程の写真ではなかったです。不機嫌な顔の先輩が写ってるだけで。それも全部消去しました。」

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