坂道では自転車を降りて
「それで、今西は?」
「沼田先輩が、すげー怒ってて、もう絶対近づけさせないって。沼田先輩にも話を聞きますか?」
沼田先輩もすごく悩んでいた。今西は先輩に帰って欲しくなくて、身体を掴んでしまっただけだと言っているけど、それが本当なのかもわからない。本当だとしても、出来心で済む問題なのか、もっと深刻な状況なのかは相手によって違う。何より、大野先輩はショックで放心状態だった。
そりゃあそうだろう。鍵こそかかってないけど、助けの来そうもない密室で、親しくもない、しつこい男に、力ずくで押さえつけられたんだから。
「今はいい。分かった。ありがとう。」
「いえ。。すみませんでした。」
「いや、もういい。」
「大野先輩、大丈夫でしょうか?」
「今日はもう帰ったと思う。予備校の日だ。教室では普通にしてる。多分。」
「そうですか。相変わらず、気丈というか。強いですね。」
「そうだな。。」
先輩は、なかなか信じられないようだった。
「多恵は、その、本当にやられてないの?」
「やられてはいないと思います。2人ともちゃんと服来てたし。そんなに時間はなかったと思うし。」
やられてはないと思う。服も乱れていただけで、脱がされたという程ではなかった。だが、俺達が部室に行かなかったら、どうなっていたかは分からない。
「そう。。。わかった。多恵を助けてくれてありがとう。」
「いえ。元はと言えば、俺のせいだから。スミマセン。それより、大野先輩をお願いします。」