坂道では自転車を降りて
「姉は、もし自分にこんな事があっても彼には言わないって言ってました。」
「そうなんだ。」
「多分、俺にも親にも言わないと思うし、1人で抱えるというか、なんとかしようとすると思います。悪いのは自分だからと。」
「。。。」
「でも、俺は、彼氏に抱き締めてもらって欲しいと思います。姉の彼氏が今どんなやつなのかは知りません。でも、願わくば、何も聞かずに、側にいて抱き締めてくれる男と付き合ってて欲しいし、そんなときにほっとくヤツ、俺は認めない。」
「。。。。」
「あの日、神井先輩から2回電話がありました。」
「あぁ。」
2回だったかな。もっと何度もしたような気がする。
「大野先輩は出ませんでした。出ようとしなかった。」
「お前が出たな。」
「そうです。あの時はよく考えずに思わず出ちゃったんですけど。どうして俺が出たのか、分かりますよね?」
「わかる。」
「先輩はいつもそうだ。何度も大野先輩をひどい目に遭わせて、どうして平気な顔してられるのか不思議です。川村先輩を追い出して、倒れるまで仕事させて、先輩困ってるのに俺達の前でイチャついたり、原先輩には悪口言いふらされて。。今度は、襲われて泣いてるのに放置ですか?」
「原が悪口?」
「そうですよ。身勝手にあんたを振り回してるとか、魔性の女だとか、鈴木先輩のことまで持ち出されて、あの人があんな事言われて、傷つかないわけないでしょ?原はあんたと彼女が付き合ってるのが気に入らなかったというか、大事なあんたを振り回す大野先輩が嫌だったんでしょうね。」
「そんなの、初耳だ。」
「当たり前です。誰があんたにそんなことわざわざ教えるんですか。でももう部も引退したし、2人で仲良くやっててくれてたら、大野先輩がそれで幸せだって言うなら、俺は別にそれで良かったんですけど。」