坂道では自転車を降りて

 予備校に着いた。まだ講義中のようだったので出入り口で待つ。30分程で人が続々と出て来た。見逃さないように目を凝らす。男子はひとりひとり出て来るけど、女子は連れ立って出て来る子が多かった。彼女に連れがいたらどうしよう。いや、こんな所で友達を作れる程、彼女は社交的じゃない。考えながら人波を眺めていたら、彼女を見つけた。彼女は独りだった。
 少し上を向いて、空や店の看板などを眺めながらフラフラ歩く。リラックスしているときの歩き方だ。俺に気付かず目の前を通り過ぎた。普通に元気だ。
「多恵。」
後ろから声をかける。織田は少し離れたところで俺のすることを見ていた。声をかけたのに、彼女は聞こえていない様子だった。
「多恵。」
もう一度、声をかけながら肩を叩くと、彼女は振り向いた。俺だと分かると、少し驚いていた。

「あれ?どうしたの?」
「どうって、」
「あ、模試の結果を貰いに来たとか?」
「いや、」
「?」

彼女は怪訝な顔をして、「私はもう帰るところ。」と言って歩き出した。逃げる訳でも、抱きついてくる訳でもない。つとめて普段の距離感を保とうとしている。俺は並んで歩いた。
「もう用は済んだの?神井くんも帰るところ?」
「あぁ。」
「そう、一緒に帰る?」
にこりと作り笑いをした。

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