坂道では自転車を降りて

『逃げてゴメンね。今、電車に乗りました。また、あらためてお便りします。』
なんて素早い。俺達がこんなところで言い争っている間に、彼女は帰ってしまったらしい。
「どうします?」
「追いかけるよ。こっちだって意地がある。このまま逃げられて、うやむやにされてたまるか。それになんか。。。」
なんだろう。気分が上向いてる。
「愚痴ったらスッキリした。」
 織田には助けられてばかりだな。思いながら苦笑する。織田も幾分ホッとした顔つきをしていた。家が近いのが幸いした。逃げていたのは自分の方だったのに。つくづく俺は身勝手な奴だ。

「言っときますけど、絶対に、責め立てたり、怒ったりしないでくださいよ。」
「わかってる。」
「大野先輩は、あんたの事が好きだと思いますよ。」
「それは、、彼女もそう言ってた。俺もそう思いたいけど。」
「大野先輩は自信がないんですよ。あんたの邪魔になってないか、あんたに怒られないか、あんたががっかりしないか、いつも気にして、不安そうな顔をしてた。なのに、変な所で気が回らないと言うか、天然で、鈍感で、誰にでも優しくて。そんな自分を変えることもできなくて。だからあんたに嘘をつくんだと思う。」
「。。。。。」
「俺、今日はもう帰ります。だいぶ遅くなっちゃったし。今日はあんたに譲る。また連絡します。」
織田は俺とは別の路線に乗って帰って行った。

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