坂道では自転車を降りて
もう一度彼女の家の前に着いた。家の前に行くとメールしたけど、返事は来ない。どうしよう。呼び鈴を押そうか。彼女の部屋だと言っていた窓には明かりが灯っていなかった。でも家にはいる筈だ。家族とリビングにでもいるのだろうか。見上げていると、灯りのついた小さな窓から音がした。そうか、風呂に入っているのか。
彼女の家の前の電柱にもたれて立つ。電話をしても無駄だ。ここで待つしかないのか。でもいつまで?夜更けに彼女の家の前にずっと立ってるなんて、誰がどう見ても不審者だ。どうしよう。しばらくすると彼女の部屋の明かりが灯り、窓辺のカーテンに人影が揺れた。程なくメールが帰って来た。
『帰りなよ。通報されちゃうよ。』
俺が電話をかけると今度ばかりは出てくれた。
「でてきて。頼むから。」
「。。。。」
「お願いだから、出て来て。」
「。。。。」
「なんで逃げるの?」
「。。。。。」
唐突に電話が切れた。どうしよう。これまでなのか。祈るように窓を見上げていると、明かりが消えた。何か大事なものが消えたような気がした。
少しして、彼女が玄関から出て来た。俯いたまま、閉じた門の内側で止まった。
「多恵。門を開けて。こっちに来て。」
「どうして?」
いまさら?彼女にしてみれば、それはもっともなのかもしれないが。でも俺だって今日、知ったんだ。
「頼むから。」