坂道では自転車を降りて

 2回戦は2年生が相手だった。俺みたいな文科系クラブ所属で運動神経も普通の生徒が混じっていても、2回戦くらいまでは運が良ければコマを進める事が出来る。相手も特に上手くはなかったが、バランスの良いチームだった。こちらの穴を突かれて3点も取られ、結果的にはボロ負けだった。キーパーだった飯塚が顔面でシュートを受けて、鼻血を出していたので保健室へ付き添う。反射神経は悪くなさそうなんだが、動体視力が足りなかったみたいだ。

 保健室の前から、理科室前の廊下に沼田がいるのが見えた。飯塚を放り出して沼田を呼び止める。
「神井、どうかしたの?」
「飯塚が鼻血。俺は付き添い。」
「お前ら今年も同じクラスだったのか。」
「腐れ縁だな。それよりさ。大野さんなんだけど、」
 沼田は俺が彼女の事を聞くと、あぁ、と言って目をそらした。彼女が休んでいるのは本当らしい。

「単に体調不良じゃないかな。昨日は普通に元気そうだったけどなぁ。」
「沼田。俺、昨日、織田に話を聞いたんだ。あの日、彼女に何があったのか。」
沼田は少し驚いた様子で、俺の顔を見て、気の毒そうな顔をした。
「なんだ。そうか、聞いたのか。」
「なんですぐに俺に教えてくれなかったの?」
いまさら沼田に文句を言ってもどうにもならないのは分かっているんだけど。

「俺は、彼女とはあまり話してないんだけど、彼女がお前には知られたくないって言ったって、織田が言うから。クラスでは普通にしてて、大丈夫そうだったしな。お前のことを考えると、どうしたもんだろうとは思ったんだけど。俺には彼女の気持ちまでは想像もつかないから。でも、そっか。結局、話したのか。」
「クラスでどうだった?」
「遠目で見る限りでは、普通だったよ。皆と話して、笑って。」
「そう。」
「今日はなんで休んでるんだろうな。お前は知らなかったんだ。」
「うん。」
「今西も今は反省してる。もう絶対に近づけさせないから。俺と織田で責任もつから。」
「うん。頼む。ありがとう。」
「俺は今西の事、ちょっと危なっかしいなとは思ってたんだ。本人に悪気はないみたいなんだが。織田は去年、あまり写真部の方に顔出してなかったから、気付かなかったみたいで。ごめん。俺がもっとちゃんと見とけば良かった。」

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