坂道では自転車を降りて

 結局、多恵の欠席の理由も、了解の意味も分からないまま昼になった。ウチのクラスは男子のハンドボールのチームが唯一勝ち残っているらしい。朝にはほぼ全員が体操服を着ていたが、この時間になると、制服の生徒が増え始める。昼前にホームルームがあり、この後は、応援するか、自習するか、帰宅しても構わないとのことだった。彼女はどうしているのだろう。弁当を食べる前に、階段の踊り場から電話すると、彼女は電話に出た。

「学校来てないだろ。どこにいるの?」
「ばれちゃった?でも一緒に帰れるよ。今から行くね。」
声の間に風の音が聞こえた。どこか屋外の広々した所にいるみたいだ。
「どこにいるの?学校サボったの?」
「神井くんはいつ頃帰るの?」
「俺はもう負けたんだ。弁当はとりあえず食べるつもりだけど。その後は応援しても、帰っても良いよ。」
「だったら、駅に着いたら電話するね。1時間か、もうちょっとかかるかな。待っててくれる?」
「分かった。っていうか、君、今どこにいるの?」

俺の質問には何も答えないまま、電話は切れた。でも、今から来るって言った。一緒に帰ると。今、ドコにいるのかは気になるけど、そんなの後で良い。もうすぐ会えるんだ。声も明るかった。それだけで、本当にホッとした。

 俺は制服に着替えて弁当を食べ、携帯を持ったままハンドボールを観戦した。決勝戦がもうすぐ終わるという頃、メールに着信があった。
『やっぱり行かれなくなりました。約束を守れなくて、ごめんなさい。』

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