坂道では自転車を降りて
液晶パネルを見ながら、しばらく呆然とした。自分の頭に怒りで血が上って行くのがわかる。すぐに携帯を閉じ、校舎へ向かう。人気のない裏庭の校舎の影から電話をかけた。落ち着け。落ち着け。呼び出し音が鳴る。出ないでくれ。今、繋がったら、怒りに任せて詰ってしまう。
ずいぶん長い間、電話はコール音を鳴らしていた。出ないよな。それでいい。俺はホッとして息を吐いた。彼女の鞄の中か、もしかしたら手の中で彼女の携帯が鳴っている。俺の怒りと不安をのせた音を、きっと聞いてる。2人の電話は繋がってる。今はそれだけでいい。ただ、彼女と繋がる音を聞いていた。
突然プツッと音がした。駅の発車のベルとアナウンスが遠く聞こえる。何が起こったんだ。そうだ。彼女が電話に出たんだ。だが、お互いに何も話せなかった。沈黙の時間に耐えきれず、俺は電話を切ってしまった。何やってんだ俺は。格好悪すぎる。
自己嫌悪で頭を垂れていると、飯塚がやってきた。
「大丈夫?」
「何が?」
「なんか、テンパってるから。」
「別に、何でもないよ。」
俺の携帯が鳴った。この着信音は彼女からだ。
「携帯鳴ってるよ。」
「分かってる。今出る。」
パネルに表示された彼女の名前を見ながら答える。分かってる。病気でさえ学校を休んだ事の無い彼女が、今日、多分学校をサボっている。俺は彼女をもっと気遣って、優しい言葉をかけてやらないといけないんだ。でも、彼女は俺に会えないと言った。また逃げられた。会うと約束して、明るい声で電話に出て、希望を持たせておいて、ギリギリまで待たせて、潰した。彼女は何がしたいんだ?